ソマティック・マーカー仮説と意思決定について/感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ

posted in 22:38 2013年12月29日 by 涼微
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感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ
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情動と脳科学といえば、エモーショナル・ブレイン―情動の脳科学という本があり、個人的にも読むだろう候補なんだけれども、ふと感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザが目に入ったので、ぱらぱらっと読んだ。

まず、筆者のダマシオが本書で語る情動や感情という言葉は一般的・辞書的に考えられている(急激で強いものは情動、そうでないものは感情)ものと違って、下記のようなものらしい、

p4
それらは「生命調整」という、有機体のもっとも重要な、そしてもっとも基本的なプロセスの中でいわば因果的につながっていて、情動は「身体」という劇場で、感情は「心」という劇場でそれぞれ演じられる。たとえば、われわれが何か恐ろしい光景を目にして恐れの「感情」を経験する場合を考えてみる。その場合、体が硬直する、心臓がドキドキする、といった特有の身体的変化が生じるが,身体的変化として表出した生命調整のプロセスが、ダマシオの言う「情動」(この場合は「恐れの情動」)だ。一方、脳には、いま身体がどういう状態にあるか刻一刻詳細に報告され、脳のしかるべき部分に対応する「身体マップ」が形成されている。そしてわれわれが、その身体マップをもとに、ある限度を超えて身体的変化が生じたことを感じるとき、われわれは「恐れの情動」を経験することになる。

続いて、「ここで重要なのは、一般的に考えられている順序とは逆で、『怖いと感じるから、その結果として身体が硬直したり心臓がドキドキしたりする』のではなく、『怖いものを見て特有の身体的変化が生じるから、「そのあとに」怖さを感じる』のである。」

という趣旨のことが書いてあるが、「感情より身体的な反応が先にくる」という説はここ数年けっこう聞くようになっていると感じるのだが、と思って出版年を確認したら2005年に出版された本だったので、この本が原書で書かれた当時はあまり語られてなかった仮説なのかもしれないと思うなど。

ところで、先の引用に書かれている「身体マップ」といえば、脳の中の身体地図―ボディ・マップのおかげで、たいていのことがうまくいくわけという本もあり、これを読むことにより言ってることの理解が深まるのかも。

本題に戻って、生命の維持のために有機体には「ホメオスタシス調整」という機能が備わっているが、ダマシオはその進化的にもっとも高い(新しい)レベルの調整機能が感情であり、そのすぐ下にあるものが情動であると考えている。これはつまり、ゾウリムシなどの単細胞生物にも見られるダマシオの言う身体的な情動反応から、高等動物や人間に見られる感情反応まで、それらは生命維持のためのホメオスタシス調整機能として働いているということになり、情動や感情の役割について考える際の基盤になる。

そうして、こういった役割から推論してダマシオが生み出したのが「ソマティック・マーカー仮説」で、引用すると次のようなものである。

p7
われわれの日常生活は、「さて、つぎはどうするべきか?」という、考えられる多数の選択オプションの中から妥当なものを一つだけ選択する「意志決定」の連続からなっている。普通、最善の意志決定は「合理的、理性的」になされると考えられるが、ダマシオはそうは考えない。もしわれわれが多数のオプションを一つひとつ合理的に検討し、そうやって最善の一つを選択しているのだとすると、あまりにも時間がかかりすぎるからだ。実生活において妥当な選択が比較的短時間でなされるのは、特定のオプションを頭に浮かべると、たとえかすかではあっても体が反応し、その結果たとえば「不快な」感情が生じ、そのためそのオプションを選択するのをやめ、こうしたことがつぎつぎと起きて、多数のオプションがあっという間に二つ、三つのオプションまで絞り込まれるからであり、合理的思考が働くのはそのあとのこと、とダマシオは考えている

意志決定の際の、合理的な判断が下される前に感情的な判断がなされる時点においてその基準になるのは過去の経験で、次のような過程で形成される。

p8
過去にわれわれがオプションXを選択して悪い結果Yがもたらされ、そのために不快な身体状態が引き起こされたとすると、この経験的な結びつきは前頭前皮質に記憶されているので、後日、われわれがオプションXに再度身をさらすとか結果Yについて考えると、その不快な身体状態が自動的に再現されるからだという。

ソマティック(somatic)には身体のという意味があり、Somatic markerを訳すと過去の選択から引き起こされた感情が身体(somatic)にmarker(標識)として埋め込まれるぐらいの意味なんだろうと思う。ソマティックマーカー仮説について、日本語の情報はあまりweb上に存在していないけど、英語情報ならwikipediaのSomatic markers hypothesisなどがあり、進化論的な証拠についてやソマティックマーカー仮説に関する実験のアイオワ・ギャンブリング課題(Iowa Gambling Task)が載っている。

さて、ここまで書いたことについて簡単にまとめると、ホメオスタシス調整としての機能を持つ身体的反応としての「情動」と心の反応としての「感情」があり、情動反応によって生み出される感情は、一度起こった身体的な反応に対する快/不快を記憶し、次回同様な身体的な決定事項の際に、感情が呼び起こされ意志決定の際の重要な基準になるということになる。

ところで、合理的・感情的な意思決定について考える際に、最近では行動経済学のフレームークが使われることが多いけれども、行動経済学以前の前提である感情を無視して人は合理的な選択をするものだという前提を現実の個人に当てはめて考えてみると、人は集めなければならない情報の多さに辟易してまうだろう。だから、擬似的に合理的に選択するための基準として心理学用語としてのヒューリスティック(暗黙のうちに用いている簡便な解法や法則)を用いることがあるが、ソマティックマーカーを用いた意思決定はこういったヒューリスティックの中の「感情ヒューリスティック」に類似しているなと思った。

心理学と意思決定を絡めた本で言えば、例えば印南 一路氏のすぐれた意思決定―判断と選択の心理学があり、他に類書はないかなと思って探すと、行動意思決定論―経済行動の心理学という本が中々面白そうで興味をかき立てたてられる。

とまぁ、色々と話題が飛んだわけだけれども、本日の情報探索行動はこの辺にて。感情/情動/脳/意思決定を高いレベルで結びつけたら、日常的な範囲においても色々と応用できて普段の行動過程について再考できるので面白かったりする。

進化しすぎた脳/池谷 裕二

posted in 17:36 2007年01月30日 by 涼微
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採点

85点

項目

第1章 人間は脳の力を使いこなせていない
  講義をはじめる前に
  みんなの脳に対するイメージを知りたい ほか
第2章 人間は脳の解釈から逃れられない
  「心」とはなんだろう?
  意識と無意識の境目にあるのは? ほか
第3章 人間はあいまいな記憶しかもてない  
  「あいまい」な記憶が役に立つ!?
  なかなか覚えられない脳 ほか
第4章 人間は進化のプロセスを進化させる
  神経細胞の結びつきを決めるプログラム
  ウサギのように跳ねるネズミ ほか

詳細項目

内容のレベル     

        7

(概感)進化しすぎた脳

現代科学で注目されている一つである「脳」についての入門書的な本を探していたら、「中高生と語る大脳生理学の最前線」という事で、なんとも丁度よさそうな本を発見!ということで、まずこの本の概要を見てみよう。

概要

そもそも本の構成は、「中高生との対話」ということで、小人数の授業形式で進められている。だから、著者の池谷裕二氏も学生にも分かりやすい様に、出来るだけ難解な言葉や表現を使わないように、また様々な例を用いて「脳」について語っているので、本書は非常にスムーズに読み進めることが出来る。

さて、この本のタイトルである「進化しすぎた脳」という意味はいきなり第一章で説明される。それは要するに、今や常識となっている感もあるが、人間は脳を使いこなせていないという事である。というのも、脳はその持ち主が現在置かれている環境に相応した能力しか使わない。例えば、もし人間に腕が4本あるという環境の下では、脳でその腕についての神経が発達し、使いこなすことが出来ると著者は言っている。また、脳の中身では、人間の各部位(目、足etc)についての対応する箇所やそこから繋がる神経が決まっていて、そこに刺激を与えるとどういった反応が起こるのかという実験をマウスや人間に近いサルでする事で、日々研究が進んでいるのだという。

また、本書では脳の勝手な解釈というテーマについても一章を設けている。例えば、人間が世界を解釈する際に良く使っている目の「見る」という機能も脳の解釈から成り立っているという。というのも錯覚が起こるメカニズムは網膜における二次元的なつくりを現実の三次元に対応させるために必要なものだとか、実は目で識別できる範囲は狭く、それを脳が補ってくれているだとか、要するに脳の解釈により人間も現実を解釈しているのである。

さらに、扁桃体についての話も興味深い。これは、人間の根本的で反射的な反応がこの部位で起こり、この扁桃体が活動することにより様々な感情が出る。要するに、「悲しい」等の感情が出てそこから「泣く」行動に移るのではなくて、扁桃体が反応しそこから反射的な活動がおきて感情が出てくるということだ。

後半に掛けては、今度は記憶のあいまいさのメカニズムとその効用の章がある。メカニズムに興味がある人は本書を読むか何かで調べてもらって、効用について知るのは大変有益である。というのもコンピューターの様な正確な記憶と違い、曖昧な記憶というのは応用力が働く。つまり、過去の記憶と繋げる事で創造的な思考となるのである。だから、記憶力が悪いのも案外有益なものと認識した方が良い。

最終章はアルツハイマー病等を扱い、少し科学的であり説明しだすと長くなりそうなので、割愛させていただこう。

気になった単語

ニューラル・プロステティクス「神経補綴学(しんけいほていがく)」…脳内で考えた事は、電気の信号を伝達する事で動作に伝わるので、その信号をコンピューターで感知し物質を動かす。

この技術が出来たらすごいなぁ!今後要注目の分野です。

複雑系…様々なミクロ的な要因が集まtったマクロ要因は、単純な法則では予測不可能となる。

勉強不足で知りませんでした^^;近いうちに関連書籍を読んでみよう。

感想

脳のことについて知るのは、理系人間じゃなくても必要なことなのではないでしょうか。というのも日々の生活で行動する時、まず間違いなく脳が関わってきている。だから、脳のことについて知れば、生活の中で考える事の質も上がる気がするから、脳についての本を読んでいこうと思ったわけである。

さて、本書はそういった意味で入門的にも最適な位置づけな本の様に思われる。というのも上にも述べたとおり、表現が平易で専門用語が出てきても、その用語の位置関係がすぐに分かるからである。

しかし、脳というのはもっと深い物で、これだけの知識ではまだまだ足りるものでもないから、これからも脳関係の本を読み進めていくことだろう。

また、脳に興味がない人もこの本を読めば興味を持てるのではないかと思われるのでおすすすめの一冊である。

興味深い関連ブログ

ish

Book Review’S 〜本は成長の糧〜  

無秩序と混沌の趣味がモロバレ書評集 

ど風呂グ  

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