自壊する帝国/佐藤 優
内容(「BOOK」データベースより)
ソ連邦末期、世界最大の版図を誇った巨大帝国は、空虚な迷宮と化していた。そして、ゴルバチョフの「改革」は急速に国家を「自壊」へと導いていったのだった―。ソ連邦の消滅という歴史の大きな渦に身を投じた若き外交官は、そこで何を目撃したのか。
採点
90点
項目
序章 「改革」と「自壊」
第1章 インテリジェンス・マスター
第2章 サーシャとの出会い
第3章 情報分析官、佐藤優の誕生
第4章 リガへの旅
第5章 反逆者たち
第6章 怪僧ポローシン
第7章 終わりの始まり
第8章 亡国の罠
第9章 運命の朝
内容のレベル
8
(書評)自壊する帝国
そもそもわたしが本書を読んだ理由というのは、特にロシアの歴史に興味があったわけではく、ただ佐藤優氏の著作を一冊読んでみようと思い手にとってみただけであった。しかし、話題に違わず本書もなかなか刺激的な書だったのでまず、その特徴を記述していこう。
本書は佐藤氏が崩壊前後のソ連において、どんな人物と関わり、どの様な行動を取ったのか、という事を記述したノンフィクションの歴史物である。そのストーリーおいて、主線で展開されていることにおいては、「人脈」というのが一種のキーワードになってくると思われる。というのも、本書におけるソ連崩壊の歴史的記述については、おそらく類書が結構あり、(わたしとしては知らない事だらけだったが)特に目新しい内容でもないと思われ、では何がこの本の独自性かというと、佐藤氏の「人脈」に関わることではないかと思われたからである。
さて、その「人脈」形成において一番貢献したのは、頭がきれることを前提とした、氏の宗教に対する知識であろう。そもそも彼は同志社大学で、特に東欧の神学について勉強しており、その歴史的背景に対する興味・知識が随所に発揮されていた。というのも、彼の人脈を広げるキーパーソンとなったカザコフという人物も彼がソ連赴任中世話になった大学の哲学科で知り合ったし、後々会う人物にも哲学的素養を持つ人物が大勢いた。この事実は、かの時代の無神論であった共産主義のソ連でさえ宗教観を持っているのだから、他の諸外国においてはそういった思想が根付いており、日本の思想観と大きなずれがあることを再認識させられた。
また、一般的にいうと「人脈」形成においてはいかに相手と親しく出来るかどうかが大いに関わっているのではないだろうか。しかし、佐藤氏本人によれば彼は、人見知りが激しいそうなので、それを表に出さず、いかに懇切丁寧に要人と接してきたかが窺えるものである。
また、ソ連の人々に根付いた考え方が、いかに当時の激動と関わっているかも察することが出来る。特にこの時代は当時のソ連の民族性がいかんなく発揮されていたことであろう。といのも、本書にも書いてあったが、人は危機的状況に陥ると本能が剥き出しになるので、ということは当時の状況からして人々に根付いていた思想が色濃く出たのではないかと思ったからである。
さらに、ゴルバチョフ氏の評価は日本と違いかなり悪いという事などの、情報量の差異や方向性の違いによる認識のずれが生じていることも思い知らせれた。それは、当時の一線で見てきた人との認識のずれを窺い知ることが分かる一端である。
さて、本書を総論すると歴史的事実や民族性はある程度の水準の知識を持っている者ならば目新しいことはないであろう、しかし、一級の頭脳を持つ佐藤氏の視点からのソ連崩壊前後の背景や洞察、要するに当時のソ連に深く関わった日本人の一人として、提供する歴史的背景や彼の近辺を含めた当時の物語を味わいたい人は間違いなく必見の一冊である。
私的感想
いやはや、本書はわたし程度の知的水準では、「インテリジェンス」との格の違いを存分に見せつけられる一冊であった。特に、哲学・思想・政治・外国語・民俗学・社会学・歴史etcのあまりの知識の足りなさに知的欲求を大いに刺激させられることとなった。そういった観点からも必見の一冊である。というのもわたしは、途中でグーグル検索をして、後々読もうと思う関連書籍を探し回った程である。
ところで、上記のようにいまいち知識地盤が弱いことと、さらに横文字ネームに慣れていないことも手伝って、読破するのに時間が掛かる人もいるから少し注意が必要である。
それにしても会話が「〜か」で終わるのがたまに気になる (笑
例えば、「それは本当か」とか「どういう意味か」とか、「〜か」が何回も続くので、たまには語尾ぐらい変えればいいじゃないかと思ったが、まぁ内容がいいので細かいことは気にしない様にしておこう。
しかし、これは、国家の罠とインテリジェンスも間違いなく読むことになりそうな読後感だなあ^^;
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この記事へのコメント
これまでほとんどノンフィクションなんて読んでこなかったんですけど、この本を読んでちょっとノンフィクションにも興味がでてきて、まだ積読状態だけど何冊か買ってしまいました(笑)
佐藤優さんの他の本もアマゾンで見てみた限りでは評価も高いし、いろいろ読んでみたいなと思ってます☆
ノンフィクションの魅力は、やっぱり現実に側してるところですよね。「事実は小説より奇なり」とは良く聞きますけど、本書は全くその通りですね!
わたしもこれからたま〜にノンフィクションを読んでいくことになりそうです^^;
佐藤さんの理解には是非「国家の罠」を一読ください。「自壊する帝国の結末が国家の罠につながるということになりますが、書かれた順は逆です。哲学・宗教・思想に興味を惹かれるならば、「ナショナリズムという迷宮」がお勧めです。
自壊する帝国書評参考です。
http://blog.goo.ne.jp/taraoaks624/e/40306a6d6be5cfe5ba6a4c11737c44df
小生のブログ、10/28記事。
「自壊する帝国」稀有な人間力をみせる凄まじい一冊
というタイトルです。
亀山郁夫氏の書評拝見させてもらいました。その「自壊」に対するとても突っ込んだ考察は本書の理解を促進する手助けになりました。
はい、「国家の罠」も読んでみるつもりですよ。寧ろ、紹介文なんかを見てみますと「国家の罠」の方が面白そうな印象を受けます。
>「ナショナリズムという迷宮」
こういうジャンルの本も出してたんですね!是非参考にさせてもらいたいと思います。
わざわざ、関連本の紹介まで有り難う御座いまししたm(__)m
日暮れて途遠しさんの佐藤氏に対する知識・情熱はとても参考になります!